2004年01月09日

猫の手は借りられた

猫の手は借りられた

  それは25日から始まったと言っていいのかもしれない。
  冬コミに行く為、いつもお泊まりする猫屋敷。そこに前日である25日に予定の変更無しの電話連絡を入れるのは、さほど不思議な行為ではない。
  だが、既にそれは起こっていた。
「あのね、今日のお昼過ぎに足折っちゃった」
  受話器からそんな言葉が聞こえてくれば、誰だって耳を疑ってしまう。そしてその原因とは地球を守る為に、足を犠牲にしたと言う。つまり転び方が悪かったと言う訳だ。
 本来ならそんな重大とも言える怪我をした人間の家に、泊まることは遠慮するべきだろう。だが、彼女は花屋。この時期は一年の中で非常に忙しい。しかも家には6匹の猫がいる。餌やら、猫砂の処理など、日々欠かせない作業がある。そして外には鶏も、居る。しかも複数。
 そんな訳で、手伝うことを前提に、他に変更無く、お泊りすることと相成った。
 そしてそのことは、コミケ直前とあって、メールによってその日のうちに、関係者に広がるのは当然とも言えた。

 翌26日、不安を抱えながら待ち合わせの駅に到着。
 車で迎えに来た彼女は、思ったより元気そうだった。仕事柄、騙し騙し運転しているのが、助手席に乗っていても判る。
 そんな運転だからこそより安全運転。途中で夕食を取り、そうこうしているうちに彼女の家、通称猫屋敷に到着した。
 猫屋敷と呼ばれるには訳がある。1階の6畳間及びその周辺には甲児くん、鉄也くん、3代目めぐみさん、2代目マリアちゃん、2階にはあゆみちゃん。と、複数の猫がいるからである。
 下の猫達はまだ若く、夏に合ったにも関わらず、「知らない人が来た〜っ」と逃げて行く。2階のあゆみちゃんは、もう何年来も合っている所為か、「また来たの」とでも言いたげではあるが、黙って触らせてくれるくらいにはなっていた。
 お泊りする部屋はいつもの2階の和室。勝手知ったるなんとやらで、荷物を運び、ストーブを点け、布団を敷く。
 そして今後の予定などを話した後、怪我人であり、明日も仕事のある彼女を遅くまで付き合わせる訳にもいかない。おやすみを言い、和室に戻っては早々に部屋の電気を消し、眠りに着いたのである。

 ふと目が覚めた。
 和室の蛍光灯の傘の上に黒い塊が目に入った。
 次の瞬間、それが飛び下りて来た。
 重い。
  その瞬間、衝撃が身体に伝わる。と、同時に拒否するべく両手の掌を広げ、強く差し出す。そして必然的に、受け止めることとなった。奇妙なことではあるが、受け止めた手よりも、先に飛び降りた衝撃を胸に感じていた。
 それは奇異な物体だった。
 一つの物体から放射状に何かが出ている。ふと似ている物を思い出したのが、ゲーム「メガテン」に出てくるレギオンと言う悪魔だった。だが顔が一杯ある訳でもなく、球体から四方八方に出ている訳でもない。あくまで円の周囲から何かが出ている。
 触手系か? いや、それにしてはうねっていない。何かの動物の足の様だ。
 待てよ、どうやらこれは1匹ではない。…3匹が合体しているみたいだ。
 広げられた右手の親指が、その物体の口に入った。そいつが噛んでいる。うぎゃうぎゃと親指を甘噛みしている。口の中が暖かい。
 ??????
 左手と言うとその物体の平らかな部分を支えている。ぷにぷにと柔らかく、そしてとても暖かい。しかも手触りの良い毛並だ。…狐? うさぎ? いいや、これは猫だ。色は白く、短毛種。そして2匹目は1匹目よりも印象が薄い。それでも茶色が見える。3匹目は最も印象が薄く、知らないコだ。
 怖くは無い。それよりも「何なんだ?」と言う疑問だけが頭に浮かぶ。
 ??????
「悪霊退散、悪霊退散!」
 取り敢えず、そう叫んでみる。だが怯む気配は無い。大体、こいつは異形の物体ではあるが、悪さをする物体では無いのが判る。そう、殺意や怨念、恨みと言ったドロドロとしたマイナスの波動も、全く感じ取れない。
「…何か、してもらいたいことがあるのか?」
 するとふっと軽くなった。
「判った。私に出来ることがあったらしてあげるから」
 今度はすーっと軽くなったかと思うと、そのまま天井へと消えて行った。
 そして奇妙な体験は終わったのである。
 すぐさま時間を確認する。以前、TV番組の特命リサーチ200Xで、このテの話は日時の思い違いが多いと言っていたので、すぐさま時間を確認する癖が着いていた。午前4時半。まぁ、いい頃合だ。
 …にしても、あれは一体なんなんだ?
 今の出来事をゆっくりと思い出してみる。形は奇妙だったが、白くて柔らかくて… 思い当たる節がある。…あれはめぐみさんだ!
 めぐみさんと言うのは、以前、ここの家で飼われていた猫だ。確か数年前に死んだ…
 そーいえばあれは「猫」なのに尻尾が見当たらなかったな。
 だがその理由は余りに簡単だった。めぐみさんは尻尾が極端に短い猫だった。見えなくて当然であった。
 やはりこれは、めぐみさんからのメッセージに違いない。何故か、妙な確信もそこにはあった。

 飼い主の部屋に行く。TVを点けっぱなしにして寝ていた。が、すぐに目を覚ました。元々、目覚めは早い方である。 「どうしたの?」
「…めぐみさんに猫ジャンプされた」
「下の?」
「ううん」
「先代の?」
「うん」
 彼女が驚くのは当然であった。そしてすぐさま今の出来事を総て話した。それは当然、頭を悩ませることとなる。
 やがて二人で考えた末にこんな風に結論づけることにした。
 夜中、フツーにめぐみさんが現われたとしても、他に猫がいる所為もあって、「はいはい」と撫でて済ませることだろう。変な声で鳴いたり、猫パンチされたところで、「ご飯なら朝まで待っててくれ」と言いつつ、やっぱり寝てしまうだろう。  恐らくめぐみさんは、20日頃から夜中に現われていた気がする。
 だが、誰かさんの性格から鑑みると、十中八苦「はいはい」で済ませていたことだろう、と。
 現に、彼女はこう言った。
「さっき、嫌にあゆみちゃんが変な泣き声を上げていたのよね。後でホタテを持ってきてあげるからと言って、寝てしまった」
 だからこそ「どうやらこの飼い主は全然気付きそうに無い。だったらお泊りに来るこいつに訴えよう! ただ、こいつもフツーに現われたところで、気付かないかも知れない。それならば!」
 と言うことで、インパクト勝負に出られてしまったらしい。
 そして、そこまでしてめぐみさんが訴えようとしていたこと。それは言うまでも無く、足の怪我のことであろう。本当は、怪我する前に警告したかったらしい。だが、飼い主が気付かなかった。死んだ筈のめぐさんが暖かかったということは、良い猫、つまり護り猫とか、位の高い猫になっているということ。猫界のプライドもあるだろう。だからこそ、気付かなかったことに対して、「私はちゃんと警告していたんだからね、気付かなかったのは飼い主の方なんだからね」との意味合いも含めて、あえて他の猫の手まで借りて、あーんな姿で現われたらしい。
「でも猫は4本足までにして欲しい!」
 そう叫んでしまったのは、致し方ないことである。ちなみに2体目の茶色のある猫にも、彼女には心当たりがあったそうな。

 その日の日中、塩を持って庭の一角にあるペットセメタリー。つまりめぐみさんのお墓参りをした。
 放し飼いの鶏に囲まれながら、塩を撒いてお清めし、更に盛り塩をする。塩はめぐみさんのリクエスト。別にめぐみさんを祓おうとする訳ではなく、めぐみさんのすることに必要だったらしい。
 これで判る範囲のことはした。…つもりかも知れないが。

 そして奇妙な一日は、無事過ぎるかと思えた。
 そうだ。再び、めぐみさんが現われたのだ。だが今度は、フツーに(?)夢の中だった。
 そこはあのめぐみさんのお墓の前たった。後姿で見返る姿は、4本足のフツーの猫だった。めぐみさんは優しいコだったので、こちらの願いは聞いてくれたらしい。だがその猫自体には、まだ3体の猫が入っているのが、おぼろげに判った。
 更に、「もう少し言いたいことがあるけど、まあこんなもんでしょ」と言う、めぐみさんの心も伝わってきた。
 やがてめぐみさんは、ゆっくりと去って行ったのである。

 翌朝、つまり27日。その話を彼女にした。
 夢の内容からして、我々の解釈が間違っていなかったこと。これ以上、悪いことが起こらないであろうこと。そしてどうやらこれで、一連の出来事が終止符を打ったらしいこと。そう完結することとなったのである。
 事実、それ以降、めぐみさんも現われなければ、他のモノも現われない。そして彼女の足も腫れが引き、快方に向かっている様である。今後は、夜中に現われた猫さんの行動には、注意を向けようと言うこととなったのであった。


 …ということで、これが例の「足の骨を折った事件」のフルバージョン。当然、ノンフィクションです。
posted by 優香女王様 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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